トゥース!の話

朝、会社に着いて何の気なしに引き出しを開けてみたら、身に覚えのない飴玉が出てきた。

おおかた誰かからもらったんやろうけど、少しは空腹を和らげてくれるかと思って朝シャンならぬ朝キャンをキメる。

舌で転がし、たまに空気を含ませながら(この味、この香り、そしてこの包装紙の絵柄からして、引き出し3ヶ月もののグレープキャンディだな…)とキャンディソムリエごっこに興じていると、右の奥歯に突然痛みが走った。

一瞬何が起こったのかわからなかったけど、考えられる可能性はひとつしかない。

 

どうやら虫歯デビューしてしまったらしい。

 

右の奥歯といえば完全に歯の中ではエース的な存在なので、このまま放置しておくわけにはいかない。

一刻も早く奥歯ちゃんにスタメン復帰してもらうため、午前中の業務はすべて近所の歯医者の口コミを調べることに費やした。

そして口コミの評価と関係なく、HPの歯科助手さんの写真がかわいかったところを予約した。

 

当日、やや緊張しながら院内へ入るとRIPSLYMEの曲が流れていて一気に不安を煽られる。

歯医者とかってクラシックのイメージやったんやけど違うのか。

思いっきり「フリーキーなスタイルでいこうぜ」的なフレーズが聞こえるけど、絶対にやめてほしい。

扉の向こうにはダンスフロアが広がっていて、ホワイトニングと称してDJにステージで歯をスクラッチされてピカピカにされてしまうかもしれない。

治療中先生に「痛かったらプチョヘンザしてくださいねー」とか言われたら文字通りお手上げだな。

 

余計なことばっか考えていたせいで、心の準備ができる前に名前を呼ばれてしまった。

ドキドキしながらドアを開けると、ゲスの極み乙女でキーボードやってそうな顔の歯科助手のお姉さんが立っていた。

あたりを見渡し、天井からミラーボールがぶら下がってないのを確認してとりあえず安心する。

全然話変わるけど、ゲスの極み乙女のキーボードの人(ちゃんMARI)のTwitterの自己紹介文に「たまにコポゥと発します」って書いてて、ツイート見てるとほんとにたまにコポゥ!ってつぶやいとるんやけどめっちゃこわくない?

コポゥ!って発するやつにまともな人なんていないからね。

もしかしたらこのお姉さんもやばい人かもしれないから気をつけよう。

 

ちゃんMARI似の歯科助手さんから「座ってお待ちください」と言われ、大人しく待ってると、今度は奥から女医さんが出てきた。

さっきからちょくちょく予想と違うことが起こるなあ。

おでこにCDをつけた小太りメガネの中年男性を想像してたので、なんだか期待を裏切られた気分になった。

もちろんおでこにCDはない。

お姉さんともおばさんとも言い難い、男性でいうところのナイスミドルな女の人。

ちなみにオードリーの昔のコンビ名がナイスミドルなんやけど、「どこが痛みますかー?」って聞かれて「トゥース(歯)!」って答えたら若林風につっこんでくれるかな。

そんなことを考えていると「はい口開けてー」という声と同時に、銀色の棒を口の中に突っ込まれた。

突然の強襲に、心の中のリトル春日の「アパァーーーーー」という声がこだまする。

 

(どの歯が痛いのかとか確認されんのやな)とか思ってると案の定「痛いのはどの歯ですかー?」と聞かれた。

そこから「痛いのはいつから?」「冷たいものはしみますか?」「常に痛みますか?」といった怒涛の質問攻めが始まる。

ただ、質問されてる間も俺の口の中で銀色の棒は絶えずパフォーマンスを続けてるわけで。

しゃべれない。

人は口の中に物を突っ込まれるとしゃべれなくなることをこの人は知らないのか?

それともこれはそういうプレイなのか?

目で訴えようにも先生は俺の口の中に釘付けで、全然目が合わない。

なにが先生をそこまで夢中にさせるんやろう。

俺の口の中に妖精でもおったんか。

 

このまま答えられないでいると「どうしますか?」「もう歯全部抜きますか?」「そうしましょう!」「いいですね?」と言って必死の抵抗虚しく、妖怪歯無しゴリラにされてしまう。

そうなれば春日じゃないのに「アパァーーー」しか言えなくなってしまう。

それはテクノカットにされる100倍キツいので、なんとか避けねば。

意を決して答えようとすると、思いっきりむせて「コポゥ!」という鳴き声が出た。

突然のちゃんMARI。

視線を斜めにやると、ちゃんMARIが俺の口の中をライトで照らしている。

マスクをしているせいで表情まではっきりとわからないが、本人を前にして「先制コポゥ!」をキメてしまい、かなり怒り心頭なはず。

気まずさでちゃんMARIから目線をそらすと、今度は人の口にいろいろ突っ込みながら絶えず質問攻めをしてくるゲスの極み乙女を見つけた。

助けてベッキー

そんな心中を知ってか知らずか女医さんの攻撃はなおも続き、俺は結局合計3回「コポゥ!」と鳴くこととなった。

 

満足したのか、銀色の棒を片付けると先生は「歯、きれいですよ。何も見当たらないです。どうしましょう?」と言ってきた。

なんだそれ。

こんなに歯痛いのになんもないわけないじゃん!

そもそもせっかく勇気を出して歯医者まで来たのにこのまま手ぶらで帰るわけにはいかない。

「レントゲンとかで見たら見つかるとかないですか?」

「その可能性はあります。」

あるのかよ。それお前が提案しろよ。

何はともあれ、レントゲンに最後の望みをかけることになった。

 

ちゃんMARIに連れられて、レントゲン室に入る。

椅子に座らされ、鎧のようなものを着せられた。

どんな拷問が始まるのかと身震いしていると、一瞬の隙をつかれて口の中に謎の物体を押し込まれた。

 

「はにかんでください」

 

と、とんでもないドSが現れた。

やっぱりやばい人だった。

こっちは突然口に異物をぶち込まれてただでさえ涙目なのに、そんな人に笑えと言うのか。

さてはさっきの「先制コポゥ!」の件を根に持ってるな?

なにより不意打ちだったせいですごくえずきそう。

ただどう考えてもレントゲン撮り終わるまでつけっぱなしじゃないといけんやつなはず。

経験上、一度えずきスイッチが入ってしまうと口の中に物を入れることに対する拒絶反応がMAXになってしまう。

そうなればもう「これを口に入れろ」と言われても「そんなこと言ったって(えずいちゃうんだから)しょうがないじゃないか」と言うしかなくなる。

いつのまにか「かなりえずき」から「えなりかずき」になっている恐怖。

とにかく実質チャンスは一度きりだ。

 

目に涙を溜めながら言われたとおりはにかむ。

ちゃんMARIがジッとこちらを見つめている。

なんだこの時間は。

するとちゃんMARIがしきりに「Good! Good!」と言ってきた。

やっぱりイカれてやがる。

Goodなら早よレントゲン撮らんかい!!

しかしちゃんMARIはその場を動こうとしない。

そしてなぜか業を煮やした様子で、やや声を荒げてきた。

 

「どうしたんですか!!派手!!Good!!」

 

もうパニックでしかない。

お前がどうしたんだ。頼むから早く撮ってくれ。

 

「はで!!ぐっと!!」

 

「はで!!ぐっと!!」

 

「歯で!!グッと!!」

 

おそるおそる口の中のものを噛み締めると、ちゃんMARIは何も言わずスッとレントゲン室から姿を消してしまった。

(これはどっちだ…?)と思っていると部屋の奥からレントゲン特有のカシャンというシャッター音が聞こえてきた。

どうやら当たりを引いたらしい。

ていうことはあれだな。

最初に「はにかんでください」って言われたやつ、たぶん違うな。

今となっては正解はわからんけど、きっと噛め的なことを言われとったんやろうな。

ちゃんMARI、噛めって言っとるのに涙目でずっと笑っとるやつが目の前におってさぞかし不気味やったやろうな。

 

恥ずかしさと申し訳なさで歯よりもメンタルの方で重傷を負ってしまった。

まだ虫歯があるのかどうかすらわからないのに、むせてえずいてすでに2回泣いている。

歯医者こわい。

もう二度と来たくない。

 

結局レントゲンの結果歯と歯の間に小さな虫歯が見つかって、一瞬で治療が終わった。

というよりレントゲンまでで力を使い果たして、放心状態のまま治療されて気付いたら全部終わってた。

治療中も1回だけコポったのは覚えてる。

 

ベッキー、俺もあんたの気持ちわかるよ。

しばらく休養したら金スマに出て中居くんに話でも聞いてもらおうかな。

 

おしまい

 

せめてPOP STARであれ。

おすおす。

4月になったけど新人入ってこないからあんまり新年度始まった感があんまないな。

そろそろ新しい人入ってきてほしい。

もう誰でもいいから有村架純とか広瀬すずみたいな後輩入ってきてくんないかな。

もうね、建築業界おっさんしかいない。

他はたまにおじいちゃんが紛れ込んでるくらい。

内部も外部もおっさん。おっさんに次ぐおっさん。

完全におっさんに囲まれちゃってる。

囲碁だったら完敗してるレベル。

でもね、年頃のチンパンジーとしては、たまには同世代の女性とコミュニケーション取りたいなあと思うわけですよ。

(あれ?もしかして俺土俵の上で働いてる?)って錯覚するくらい勝手に女人禁制状態になってる。

 

と、ここまで言っておいてなんやけど、うちの会社にも実はひとり女の子がいるんですよね。

まあ同期のことなんやけど、別に同期のことを女性扱いしてないとかじゃなくて、なんかちょっと違くて。

なんというか、男女の垣根を超えて、個人として異彩を放ってるというか…

 

2人で残業することがちょくちょくあるんだけど、すげー話しかけてくんのね。

しかもだいたい俺がノってるときか計算系の業務やってるときに絡んでくる。

まじでそのためにどっかから雇われとるの?ってくらい毎回最悪のタイミングで話しかけてくるから、半分くらい無視しとるんやけど、(え、ちょっと待って、俺無視しとるんやけど?あれ?俺無視してるよね?)ってこっちが不安になるくらいずっと話しかけてくる。

そもそも話の内容がほとんどないんだよね。

ここ最近でいちばんびっくりしたのは、

「お腹すいたー。わたしお腹が空いたらパンを食べようと思うんだよねー。」

っていう突如行われた謎の発表。

ここで俺が「パンなんてないよ」なんて答えようもんなら彼女がマリーアントワネット化する恐れがあったので「そうなんや。」とだけ答えておきました。

なにそのやりとり。いる?

前に同期が模型作ってて、その隙にしれーっと帰ったら、そのことに気付かずにしばらくひとりで話してたっていう逸話まであるくらい、彼女のマシンガントークは止まりません。

 

そんな彼女から一度だけ「わたし今から集中モードに入るから話しかけないでね」と言われたことがありまして。

いやもうまじで文字通りびっくりドンキーなんやけど、(え、毎日思っとる俺にそれを言う?)って思ったけど、俺の方がひとつ年上のアダルトドンキーなので大人しく了承しました。

しばらくするとデスクの向こう側からうっすらと何か聞こえてきて、仕事をしてた手が止まる。

 

「惰性で…  消す… 生きる… やめたく…」

 

ところどころしか聞き取れんけど、とにかく不気味すぎる。

なに?ひとりごと?とか思ってると徐々に声のボリュームが上がってきて、内容が聞き取れるようになってきた。

 

「人生は苦痛ですか?成功が全てですか?」

 

はい、アウトー!

何が起こったのかはわからんかど、やばいってことだけはわかる。

これは答えた方がいいのか?

でもさっき話しかけるなって言われとるし…

いやでもこれで返事ないのも不自然やし、とりあえず何か言った方がいいのかな。

 

「え、どうしt

「ぼくはあなたに、あなたに、ただ会ーいたいだけ!!」

 

違った!!!この人歌ってる!!!

微妙な声量と半端な音痴で気付かなかったけど、この人歌ってる!!!

サビに来て急に本域で歌い出してる!!!

ふつう鼻歌とかじゃない?

そんなガッツリ歌う?

あと、歌のチョイス!!!

もっと木村カエラとかにしろよ、思わず口ずさむような類の歌じゃないやろそれ!!!

あー、すげーこわかった!!!

てかふつうにうるせーな!!!!!

イヤホン引きちぎるぞ!!!!!

 

帰り道に調べたら、平井堅の「ノンフィクション」っていう曲でした。

 

頼むからフィクションであってくれ!!!

 

おしまい

 

3000年の歴史と25年の絆

花粉が猛威をふるっていますね。

職場の人たちが無限鼻水地獄に苦しんでいます。

まあ花粉症なんて僕には無縁の話なんですけど。

だいたい僕に鼻水なんて似合わないでしょ。

たまにお尻からマシュマロが出てくるくらいです。

 

この前仕事から帰ると親から「週末そっち行くから泊めてね」という連絡があった。

なにやら弟のオープンキャンパス巡り、関西編が開催されるらしく…

まじかよせっかくの優雅な休日に勘弁してくれ。

週末に来るのはダーウィンだけでいいよ。

そんなことを思いながら気休め程度に掃除機をかけていると、貧乏そうな家族が訪ねてきた。

よく見たらうちの家族だったので中に招き入れる。

すると部屋に入って早々、3ヶ月ぶりに会った息子に対して母親の第一声が

 

「あんたってそんなに中国人フェイスやったっけ?」

 

いやもうクセじゃ!

開口一番クセがすごい!

いきなりそんなクセの塊ぶつけられても上手く返せんわ!

と心の中のノブが困惑していると

 

「髪型が変わったでかな?」

 

いやちょっと髪型が変わっただけで中国人フェイスに見えるなら、そいつもともと中国人フェイスだから!!

それか今の俺が中国人ヘアーってことかよ!!

中国人ヘアーってなんだよ!!

つーか正月に会ったときから髪型は変わってねーよ!!

心の中の三村が大声をあげている。

 

「でもやっぱり今はもうあんたら似とらんね」

 

母親が俺と弟の顔を見比べている。

なにやら最近家で昔の写真が出てきたらしく、小学生までの俺と弟の顔が完全に一致しとったらしい。

まあ言われてみれば昔は似とったのかもしれない。

 

「あんたにも見せてあげたいわ、パッと見じゃ全然どっちかわからんよ」

 

「えっ、そんなに?じゃあどうやって見分けるの」

 

「最初はわからんかったけど途中からある法則を見つけたで見分けるのは簡単」

 

「なにそれどういうこと」

 

「(弟)の写真が、全部無表情なの」

 

「えっ、なにそれこわすぎ」

 

「遊園地での写真も、動物園での写真も、全部無表情」

 

「こわいこわいこわいこわい」

 

「ほらうちの子クールガイやでさ」

 

「いやもう心配になるわ」

 

「わたしはあんたの写真見たときも心配になったよ」

 

「えっ」

 

「あんたは笑っとる写真とかもちゃんとあるんやけどね、ほとんどの写真で…」

 

「うん、なに」

 

 

 

「めっちゃ鼻水垂らしとるの!!!」

 

 

 

すいません、めっちゃ鼻水垂らしてました。

 

 

おしまい

 

25歳、愛を語る。

 

平成28年から平成29年に移るのは慣れるまで時間がかかったけど、平成30年にはすぐ慣れたな。

いきなり「いま平成何年やっけ?」って聞かれてもすぐに「平成30年!」って答えれる自信あるもん。

てゆーかもう平成30年なのが驚きやけど。

 

SMAPも解散したし、安室ちゃんや小室ちゃんも引退するし、平成が終わりを迎えようとしてる。

でもこれで全てが終わるわけじゃなくて、「平成」が終われば「平成♯」が始まるし、そこから「も〜っと!平成」「平成ドッカ〜ン!」と続いていくんだけどね。

 

平成ドッカ〜ン!元年なんてかなり未来の話やし、何があってもおかしくないよな。

人間ももっと進化しとるかも。

不思議なチカラがわいたらどーしよ?(どーする?)

何だかとってもすてきねいーでしょ!(いーよね!)

AIの普及で仕事っていう概念がなくなっとるかもしれんな。

きっと毎日が日曜日。学校の中に遊園地。

やな宿題はぜーんぶごみ箱にすてちゃえ!

おい!誰がおジャ魔ウンテンゴリラじゃ!

 

そんなことより孤独。

未来の話なんかより今の孤独。

平成30年になってもなお孤独。

愛に飢えたゴリラ。

愛が欲しい。無理なら3億円でもいい。

 

斉藤和義が「愛なき時代に生まれたわけじゃない」って歌っとったけど、斉藤和義が生まれた1966年にはまだ愛があったみたいやね。

それがどういうわけか俺が生まれる1993年までの27年の間に愛はすっかりこの世から姿を消してまったみたいで、おかげで愛の難民ゴリラです。

 

生まれてこのかた一回も愛を見たことないけど、やっぱり愛なんて存在しんのかな。

ひょっとすると俺が見つけれんだけで、実はけっこう身近なところに潜んどるとかないかな。

呼んでみたら案外簡単に出てきたりして。

 

あーい、あい!

 

あーい、あい!

 

 

 

おさーるさーんだよー!

 

 

 

 

出た。サルが出た。

結局サルしか見つけられないまま、この世に生を受けて25年も経ってしまった。

 恥ずかしい。

「四半世紀生きてます。」って言うとなんか長い間生きとるかんじするから、「ゴリラで言ったら12歳くらいです!」って言うことにしようかな。

そしたらなんかいろいろ許してもらえそうじゃない?

あれ、そうでもない?

ちなみに今さりげなく披露した「ゴリラの平均寿命はだいたい40年くらいだから自分の年齢÷2をすると自分のおおよそのゴリラ年齢がわかる」っていう豆ゴリラ知識は、修学旅行で買った木刀くらい使い所がないのですぐに忘れてもらって大丈夫です。

 

さて、今年の誕生日は友達を呼んで自作のTシャツをプレゼントしてお祝いしました。

自分へのプレゼントを自作して、テンション上がって周りにも配るという、愛に飢えた哀しきゴリラの成れの果てがそこにありました。

 

でもそれでいいんです。

 

‪考えたんだけど、愛とは常に使い捨てで、そこにとどまり続けるものじゃないのかもしれない。

だから俺たちはあふれてきた愛を愛しい人に絶えず注ぎ続けることしかできないんじゃないかな。

あふれてきた分しか注げないし、あふれてきたときしか注がないんだから、そりゃ愛がそのへんに転がってるわけないよね。

どうりで今まで一度も見たことないはずだ。

 

愛はいつも一方的で、そんな愛に見返りを求めることは大きな見当違いなんだけど、それでも誰かを愛すること以外に自分も愛される方法が見当たらないんだよなあ。‬

愛されないと嘆くのは簡単だけど、周りの人の愛を枯渇させてるのはまぎれもない自分なのかもしれない。

みんなから愛されてる人を見ると、やっぱり愛されるべくして愛されてる気がする。

俺も早くゆるふわ愛されゴリラになりたい。

もしくは、愛の化身・マザーゴリラになりたい。

 

愛について少しだけわかった気がした途端、すごく愛が身近な存在に思えてきた。

エルサも、凍った心を溶かすのは真実の愛って気付いた瞬間魔法をコントロールできるようになってたけど、それに近い気がする。

ああ、すごい。

愛がどんどんあふれてきてるのを感じる。

愛が止まらない。

愛の源泉掛け流し。秘湯・愛の湯。

あんなに探してもどこにもなかった愛が、まさかこんなかたちで出てくるなんて。

でも実は今までに何度か感じたことのある、初めてではないこの感情。

そう、この愛の正体は自己愛。

自己愛に溺れそう。

 

愛されたいと喚き、それでも自分は自分のことしか愛さない。

こんなの、おジャ魔ウンテンゴリラじゃん。。。 

 

 

ああ、また孤独が音を立てて加速していく。 

 

 

おしまい 

元日のガンジー

 

大晦日、久しぶりに帰省した。

 

大阪から約5時間バスに揺られ、(もし俺が紙粘土やったら一生この体勢で生きていくことになったな、危なかった…)といらぬ心配をしていると外はすっかり雪景色になっていて、飛騨に帰ってきたことを知る。
バスは予定通りの時間に、高山駅に到着した。

 

駅までは親が迎えに来てくれていて、久しぶりの対面を果たした。
当たり前のことだが前に会ったときよりも老けていたので、挨拶がわりに「もうババアじゃん…」と言うと「そうなんやって!見て見て!ババアの手!」と言っておそらく自分の中で一番ババアポイントの高いであろう手を見せてくれた。
ババアの手を握って「苦労したんやねえ…」と言うとババアは「てへへ」と言って照れていた。
ババアは続けて「誰かさんがなかなか親孝行してくれんもんで」と言うので、つられて「てへへ」と言った。
そんなことをしているとジジイに「早く乗れ」と怒られてしまい、2人で「てへへ」と言って慌てて車に駆け込んだ。

 

帰りにスーパーに寄ると言うのでついて行くことにした。
ババアはスーパーで惣菜たちをひとしきり物色したあと、「あんた栗きんとんと芋きんとんどっちが好き?」と聞いてくるので「大学芋!」と元気に答えると「残念、不正解。」と言われた。
(俺の好みの問題なんやから正解のジャッジは俺にさせろよ)と思っていると「でもまあ、明日は明日の風が吹くよなあ…」という謎の発言と共にレトルトのドライカレーとナンを軽快にかごに入れ、足早にレジへと向かい出すババア。

この年の瀬に、他の商品には目もくれずにナンとカレーだけを買うなんて異常すぎる。
一連の流れの意味がひとつもわからなくて戸惑っていると、後ろで妹が「いえーい!」と言っていたので我が家では日常の光景なのだろうか。
今まで一緒にいたからわからなかったけど、もしかするとうちの家族はヤバイやつらなのかもしれない。
はたまた、愛国心の強いインド人なのかもしれない。
ということは当然俺もインド人ということになる。
だんだん親の顔がガンジーに見えてきた。
もう自分が日本人だということに自信が持てない。

 

結局その日はふつうの夕食が出てきて、俺の思い過ごしかなと思いかけていた2日の朝、スパイシーな香りで目が覚めた。
油断していた。
こんな正月の朝からカレーを食べるやつなんて、イチローかインド人しかいない。

疑惑が確信に変わった瞬間だった。
あとはもう受け入れるだけ。
初めまして、インド人のわたし。
ああ、身体がカレーを欲しているのがわかる。
逆にどうして今まで気付かなかったのだろう。

さあ、大好きなカレーを食べよう。


すると、俺の中の博識なギャルが「つーかインドでは左手は不浄の手だし、右手で食べた方がよくね?」と言ってきた。
自分がインド人だとわかった今、ここは素直にギャルに従おう。
言われるままに右手でナンをつかみ、ふと横に目をやるとガンジーが元気に両手でカレーを食べている。
おかしい、ガンジーが不浄の手を知らないわけがない。
ガンジーによく似たおばさんは息子の心中を知ってか知らずか「お兄さんたち、おにぎりでも握りましょうかい?」と聞いてくる。

身体がおにぎりを欲している。

わからなくなってきた、やっぱり俺はインド人じゃないのか。

いや、もう国籍なんてどうでもいいな。
俺はこのガンジー似の陽気なおばさんの血を引いている。
これはもうまぎれもない事実で、それだけでもうお腹がいっぱいだ。


俺は妹と手を上げて「いえーい!」と答えた。

 

おしまい

シティボーイへの登竜門

 

「ひとりでスタバに行ってスムーズに注文できる」

 

これがシティボーイを名乗る上での最低ラインだと思ってる。

わかっていながら今まで敬遠していたひとりスタバ。

2017年も終わりを迎えつつある中、またひとつ真のシティボーイに近づきました。

 

これまでも、誰かと一緒になら何回かは行ったことのあるスタバ。

友達と行ったときは「なんでもいいからティーをおひとつお願いします!」と友達に注文して席で待ってるか、前の友達の注文を呪文として覚えてそれをそのまま復唱するスタイルで乗り越えてきたスタバ。

本当は俺も白いモリモリが乗ってるやつがいいのに、いつもそっけないコーヒーや謎のティーばかり飲んでいたスタバ。

何のティーかわかんないけど勇気を出して頼んだティーをストレートかどうか聞かれて「いやトールで!」と答えて静寂を生んだスタバ。

 

そんなスタバにかなりの苦手意識を持った俺に試練とも呼べる出来事が入社一年目の外出先で起こりました。

「ちょっとスタバでコーヒー買ってきて。」

上司から突然お金を渡されて思わず固まってしまう。

(スタバデ…コーヒー…カッテクル…)

半ば思考停止になりかけながらも、同期からの視線を感じ「わかりました!トールでいいですよね?」とこなれた感を演出する。

とにかく今は同期に俺がスタバビギナーであることをバレるわけにはいかない。

山から下りてきたゴリラだとバレてしまう。

「歩く拡声器」の異名を持つ同期からそんな扱いを受けてはたちまち噂が社内中に広まり、憧れのシティボーイなんて夢のまた夢だ。

俺の持ち合わせているスタバの知識と言えば「サイズはトールがベタ」ということくらいだ。

とりあえず困ったら「トールで!」と言えばいい。

入国審査ではサイトシーン、スタバではトールサイズ。

これさえ連呼してればあとは向こうが察してなんとかしてくれる。

大事なのは相手の目を見て常に堂々をすること。

少しでも怯んだ様子を見せると一気に呑まれてしまう。

ここはこういう世界だ。

俺はこの方法でアメリカの入国審査にとんでもない時間を要した。

とにかく怪しまれる前にパパッと済ませてしまうに限る。

ひとりになってしまえば注文時に多少もたつこうがバレないし。

 足早にその場を離れようとすると「お前らの分も買ってこい」と言われ、同期も一緒に行くことに。ガッデム。

(仕方ない、ここは同期に注文させて俺もそれに続こう…)

「私いらないから濱本さん頼みなよ!」

(?!?!??!)

なぜついてきた!!!!!

なぜ!!!

ついてきた!!!!!

もはや嫌がらせにしか思えないが、もう後には引けないので意を決してレジへ向かう。

「アイスコーヒー2つ。トールサイズで!」

「かしこまりました。」

(お、いけたか…?!)

「アイスコーヒーは濃いめと辛めにできますが、いかがいたしましょう?」

(What's happen??!)

まじで油断ならねえ。

こんな質問今まで聞いたことないよ。

進研ゼミにもこんな問題なかったじゃんか。

てか濃いめも辛めもどっちも濃ゆくない?!

なにこれもう全然優しくない!

コーヒーも質問も優しめがいいです…

「じゃあ…辛めでお願いします…」

(やられた…完全に呑まれた…)

コーヒーを受け取ると、同期がにやにやしながら駆け寄ってきた。

「私コーヒー飲まんからよくわからんけど、辛めのコーヒーとかあるの?軽めとかではなくて?」

「えっ」

(やーめーてえーーーー!!!!)

エルサさながらの悲鳴を心の中であげる。

その冷ややかな目をやめなさい。

少しも寒くないわ。

 

この日を境にスタバを避け続けてきました。

でもやっぱり2017年のうちに克服しておきたい…

そして今日、満を持してひとりスタバデビューしてきました。

緊張がバレないように澄ました顔でレジの列に並ぶ。

(トールサイズ、トールサイズ、トールサイズ…)

落ち着くように頭の中で念仏のように唱える。

幸い俺の順番まではまだ時間がある。

この間に周りを観察して相手の出方を見よう。

「お客様ー!」

(っべー!!!店員さんに話しかけられたー!!なぜか俺だけピンポイントで話しかけられたー!!なにここ会員制なの?一見さんお断りなの?違いますよ!見にきただけです!注文とかしないですから!サイトシーンです!サイトシーン!!)

「メニューご覧になりますか?」

(いやメニューあるんかーーーい!!!)

早く出せよ。それ1番最初に出せ。

自動ドアが開くや否や出せ。

いらっしゃいませと同時に出せ。

それさえあれば俺すげー安心すっから。

俺だけに渡されたことに若干納得がいかなかったけど、これさえもらえばもうこっちのもんよ。

メニューを開いたら絵が同じなのに違う名前の飲み物がいっぱいあったけど、もうそんなことはどうでもいい。

白いモリモリが乗ってればもうなんでもいいよ。

「これのトールサイズください。」

なにこれ。余裕じゃん。

 

こうして無事ひとりスタバデビューを終えて、またひとつシティボーイへの階段を登りました。

白いモリモリ、そんなに美味しくなかった。

 

おしまい

 

来世はフーターズガール

おすおす。

この前、友達とボルダリングコンに行ってきました。

ボルダリングコンっていうのはあれです、

ボルダリング勢からは「チャラチャラ遊びで壁登ってんじゃねえよハゲ!!」と罵られ、街コン勢からは「あんたたち本当に出会い求めてんの?!やる気ある?!」と非難されるあれです。

 

なんでそんな地雷臭しかしないものに参加することになったかというと、「もし道を歩いてて、めっちゃタイプの人からいきなり求婚されたらどうするか」っていう、常に背後に気をまわしておかないと、いつ後ろから刺し殺されてもおかしくないような会話をしてて、気付いたら申し込んでた、っていうかんじです。

 

ボルダリングコン、まじで想像できなさすぎる。

まあベタなところでいくと、男女で壁を登りながら

「お嬢さん、この掴みやすくてかわいい色の石はあなたにこそふさわしい。わたしにはこの申し訳程度に生えた石で十分です。さあ、遠慮はいらない。お掴みなさい。」

「まあ!なんて紳士なの!好き!結婚して!!」

「おっと、石を掴みに来たつもりが、どうやらあなたの心を鷲掴みにしてしまったようだ。はっはっは。」

ってことなんだろうけど、上手にできるかすげー不安。

 

一抹の不安を覚えながら会場に向かうと、最初にスタッフのお兄さんから「危ないので登るのはひとりずつです」と言われて心配は杞憂に終わりました。

(え、じゃあどこで紳士やればいいのよ…)って思ってるうちにあれよあれよと5、6人のグループに分けられて、スタッフのお姉さんの「じゃあ簡単に自己紹介して、みんなでピンクのコースをやってみましょう!」 という言葉を皮切りに、全然状況が掴めないまま自己紹介タイムに突入しました。

 

これくらいの状況を掴めないやつが壁から生えた石なんか掴めるのかって話なんですが、目の前のカラフルな石にテンションが上がり、完全に意識をボルダリングの方に持っていかれてしまっていて、(え、ピンクのコースなの?俺オレンジのとこがいいのに!俺だけ勝手にオレンジのコースやったら怒られるかなあー。)とか思ってるあいだにほとんど自己紹介が終わってることに気付きました。

ここは切り替えて残された自己紹介に集中するしかないと思った矢先、順番が回ってきた女の子が元気に「奈良県から来ました!」とか言い出すので(そっか奈良かー、、、いやおめえずいぶん遠いとこから来てんな!!!!!)と心の中でカミナリのタクミくんが大声を上げる。

(落ち着け!!タクミくん!!!たしかに奈良は遠いけど!!!)と荒ぶるタクミくんをなだめていると、そこからたたみかけるように「わたしも奈良から来ました」というもうひとりの女子。

それ聞いたときは俺も心の中のタクミくんもきっとまなぶくんみたいな顔になってたに違いない。

いやもうお前ら帰って奈良の壁登れよ…

結局「奈良から来ました」のパワーワードのせいでひとりも名前を覚えれずじまいに終わりました。

本来の目的を完全に見失ってる。

俺の方こそ帰った方がいいのかもしれない。

隣の男子もなんか空回ってるし、なんなのこのグループ帰った方がいい人しかいないんじゃないの…

幸い同じグループに一緒に行った友達もいたので、こっそり(あの女の人なんて名前やっけ?)と聞くと「忘れた。でもあそこ2人は奈良の人。」と言われました。

お前もかよ。

 

むしゃくしゃしたのでピンクのコースを終えるやいなや「じゃあここからは各自好きなところを登りましょう!!」と言ってひとりでオレンジのコースに一目散に向かいました。

これは本当に誤算だったんだけど、ボルダリングまじで消耗が激しすぎる。

他の人たちは自分がやったあと別の人がやってるのを見てわいわいする時間があるからそんなに疲れないみたいだけど、こちとら品性のないチンパンジーなので終わったらすぐ次を始めてを繰り返し続けるもんだから、ひとつめのグループで完全に握力を失いました。

まじでボルダリングなめてた。

1日3回までしか本気で登れなくて、それ以上やろうとすると上手く登れない上に体力が尽きて最悪死ぬ。

なにそれ千鳥かよ。

そのあと2〜3回グループ替えをしたけど、もちろんもう壁を登る力なんか残ってないので、後半は基本座ってて、たまにおもむろに壁に近づいて石を撫でる人でした。

早く帰れ。

 

自分はそんなザマなのに「同じ色の石じゃないとダメとか無理くない?!もう色無視してもいいでしょ!」とか言ってる女の子には「いやー、ルールは守らんと楽しくないでしょー。」とかほざいてました。

当初思い描いていた紳士の姿はどこにもなく、あるのは力尽きて床に座り込むチンパンジーの姿だけ。

まだ志村動物園のパンくんの方が品がある。

今度からボルダリングコンの要項に「チンパンジー不可」って書いておいた方がいいと思うな。

 

最後に連絡先交換タイムなるものがあったけど、まともに絡んだのはボルダリングが上手なお兄さんくらいだったので(暇だなー)とか思いながら少し離れたところで連絡先を交換する人たちを遠巻きに眺めるはめに。

まじで何しに来たんだこいつ。

たまたま近くに座ってたボルダリングコンとは関係ない女性に熱烈アプローチを受けたけど、たぶん四捨五入したら0歳くらいの若さだったので連絡先は聞きませんでした。

 

運動したらお腹がすいたので、会場をあとにすると一緒に行ってた友達を連れてそのままフーターズへ。

フーターズのお姉さんに「2人は今まで何してたのー?」と聞かれたのでありのままを話したら「えー!それって楽しいのー?」って言うもんだから2人で声を揃えて言いました。

 

フーターズの方が100倍楽しい!!!」

 

おしまい